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山口地方裁判所 昭和40年(行ウ)10号 判決 1968年4月17日

原告 今村有

被告 山口県知事

訴訟代理人 山田二郎 外五名

主文

被告が原告に対し昭和四〇年九月一六日付で別紙目録記載の土地ついてなした農地所有権移転不許可処分を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする

事実

原告訴訟代理人は、主文と同旨の判決を求め、その請求原因として、次のとおり述べた。

被告は、原告が昭和四〇年一月一四日別紙目録記載の土地(以下本件土地という)についてした訴外米本正からの農地所有権移転許可申請に対し、昭和四〇年九月一六日付で農地法第三条第二項第一号に該当するとして農地所有権移転不許可処分(以下本件処分という)をしたが、本件土地には前回号によつて保護されるべき小作農はなく、右所有権移転は農地法全体の趣旨に反しないから、本件処分は違法である。被告指定代理人は次のとおり主張した。

(一)  訴外米森安雄は訴外米本正から本件土地を賃借する契約を締結し、昭和三九年五月三〇日岩国市農業委員会から右賃借権設定の許可を受けてから、農地法第三条第二項第一号に該当するとしてなした本件処分は適法である。

本件土地につき、原告主張の仮処分の決定がなされて即日執行され、右仮処分決定が効力を有していたにもかかわらず、前記賃貸借契約が締結されたものであること、および原告主張のとおり右仮処分の本案訴訟が原告の勝訴に確定したことは認めるけれども、農地法第三条第二項第一号の小作農の権原は第三者に対抗することのできるものであることを要しないと解すべきである。

<以下省略>

理由

被告が原告に対し昭和四〇年九月一六日付で本件土地について本件処分をしたことは当事者間に争いがないので、本件処分が適法になされたものであるか否かについて判断する。

(一)  訴外米森安雄が訴外米本正から本件土地を賃借する契約を締結し、昭和三九年五月三〇日岩国市農業委員会から右賃借権設定の許可を受けたこと、およびこれに先だち、同三八年一二月一三日、山口地方裁判所岩国支部において、原告の申請に基づき右米本正に対し本件土地について賃借権の設定その他一切の処分を禁止する旨の仮処分の決定がなされて即日執行されたことは、いずれも当事者間に争いがない。しからば、右仮処分決定後に賃借権の設定を受けた右米森安雄は前記賃借権を仮処分債権者である原告に対抗することができないことはいうまでもなく、原告の申請に基づく農地所有権移転許可申請に対し、右賃借権の存在をもつてこれを不許可の理由とすることはできないといわなければならない。このような場合、被告主張のように右米森安雄が農地法第三条第二項第一号の小作農に該当するとして、原告への本件土地の所有権移転を許可しないことができるとすれば、前記仮処分の実効は全く阻害される結果となるが、農地法が、このような結果を是認してまで小作農の保護を図るものとすることはできない。しかも、本件においては、前記仮処分の本案である原告と前記米本正との間の本件土地についての所有権移転登記手続請求事件が昭和三九年八月九日原告の勝訴に確定していることは当事者間に争いがないから、前記米森安雄の賃借権が原告に対抗できないことは、確定的であるということができる。したがつて、右米森安雄が農地法第三条第二項第一号の保護する小作農に該当するとしてなした本件処分は違法である。

(二)  <証拠省略>によると、原告が広島市に家族を置き、諸般の事情から住民票上しばしば広島、岩国両市間に住所を往復させていること、そして家族には農業労働力がないことが認められるけれども、他方、証人米本辰人、同村本忠夫、同富沢茂の各証言ならびに前掲原告本人尋問の結果によると、原告は、本件処分前から岩国市において蓮根田四反余、畑一反余を耕作し、これらの農地はいずれも昭和三六年ごろ原告に買受適格あるものとして知事の許可を得ていることが認められることに照らし、未だ、原告が自家労力によつて農業に精進する見込みがないとは認められず、他に被告主張の事実を認めるに足りる適確な証拠は存在しない。したがつて、原告への本件土地所有権移転を許可することが農業生産力の増進を図る目的に反するとはみられないから、農地法第一条もしくは同法全体の趣旨を根拠に本件処分を維持することを認めることはできない。

よつて、本件処分の取消を求める原告の請求は理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 後藤文彦 大須賀欣一 大前和俊)

別紙 目録<省略>

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